【2026年現地ルポ】京都の路地裏で静かに進む「昭和レトロ」の脱・観光化と再定義——10円玉とキャッシュレスが交差する駄菓子屋の最前線
駄菓子 屋 京都の路地を曲がると、擦りガラス越しに薄黄色の裸電球が滲んでいる。鴨川から吹き抜ける冷気の中、ガラガラと引き戸を開けると、醤油の香ばしさとニッキの甘みが交じり合った独特の空気に包まれた。創業70年を超える店内の土間には、10円玉を握りしめた近所の小学生と、スマートフォンをかざす若者が、同じ木箱の前に並んで立っている。
オーバーツーリズムの熱狂が一定の落ち着きを見せ、より深い文化の肌触りが求められるようになった2026年。駄菓子 屋 京都という存在が持つ意味は、単なる「昭和ノスタルジーの消費」から大きく変容しつつある。消えゆく街頭コミュニティの防波堤であり、世代や国籍を超えた対話が生まれる奇跡的なサードプレイスとして、いま古都の日常のなかで新たな光を放ち始めているのだ。
10円玉が消える日? キャッシュレス化の波と古都のジレンマ

「10円のブタメンを買うのに、スマホをかざされる時代になるなんて思いもしなかったよ」
上京区の路地裏で半世紀以上店を構える「たばた駄菓子店」の店主、田畑勝義さん(78)は苦笑いする。2026年現在、京都市内の駄菓子屋でもタッチ決済やQRコード決済の導入が急速に進んだ。きっかけは外国人旅行者の増加と、キャッシュレス決済を当然とするZ世代・α世代の購買行動だ。
しかし、そこには駄菓子屋特有のジレンマが存在する。数十円の単価に対して生じる決済手数料の重さだ。それでも田畑さんが導入を決めたのは、「子どもたちが小銭を持たずに買いに来るようになったから」だという。キャッシュレス化という現代の波を取り入れつつも、10円単位の計算を子どもたちに教える「生の教育の場」をどう守るか。現場では試行錯誤が続いている。
「継承」の新しいカタチ:Z世代が引き継ぐ80年の暖簾

店主の高齢化に伴い、全国的に姿を消しつつある駄菓子屋。だが京都では、思いがけない継承のムーブメントが起きている。廃業寸前だった老舗を、地元の大学を卒業した若い世代が引き継ぐケースが増えているのだ。
中京区にある「きくや」は、前店主が体調を崩し2024年に一度暖簾を下ろした。それを救ったのは、近所に住んでいた当時23歳の佐藤由佳さんだった。「子どもの頃の心地よい居場所を消したくなかった」と語る佐藤さんは、クラファンで資金を募り、店舗を改装。昔ながらの煎餅缶や型抜きゲームを残しつつ、奥のスペースにコワーキングデスクを併設した。
単なる保存にとどまらない。伝統的な空間に現代の機能を同居させる手法は、古民家再生を得意とする京都ならではの知恵と言える。
千本鳥居の陰で続く日常:観光地化の波を免れた西陣・出町の穴場

清水寺や祇園周辺の商業化とは対照的に、西陣や出町柳、大宮といった生活臭の残るエリアには、観光客の喧騒から離れた素顔の駄菓子屋がひっそりと息づいている。
織物職人のカチャンカチャンという機織りの音が響く西陣の一角。ここでは、放課後になるとランドセルを背負った子どもたちが次々と店に吸い込まれていく。くじ引きで当たったハズレの飴玉を口に含みながら、今日学校であった出来事を店主のおばあちゃんに報告する。そこにあるのは、半世紀前と何も変わらない京都の「普段着の暮らし」だ。
ガイドブックには載らないこうした日常の風景こそが、いま本物志向の旅人たちをも惹きつける隠れた魅力となっている。
食育と地域防犯の拠点へ——駄菓子屋店主たちが果たす「現代の寺子屋」の役割
核家族化と共働き世帯の増加が進むなか、駄菓子屋が持つ「地域社会のセーフティネット」としての機能が再評価されている。京都市内の複数の区では、駄菓子屋を「こども110番の家」や地域の見守り拠点として正式に位置づける動きが本格化した。
「子どもが一人で安心して来られる場所、怒ってくれる大人がいる場所は、もう街の中にほとんどない」と、前出の田畑さんは語る。限られたおこづかいの中で何をどう買うかという選択肢の訓練、挨拶やマナーの習得。駄菓子屋の土間は、教科書にはない社会性を身につける最小単位の「寺子屋」として機能している。
令和最新の駄菓子カルチャー:「クラフト駄菓子」と夜の駄菓子酒場
伝統の維持だけでなく、新しいカルチャーとしての進化も目覚ましい。近年京都で密かなブームを呼んでいるのが、地元の京野菜や老舗の醤油、宇治抹茶を使用した「クラフト駄菓子」の登場だ。
さらに夜になると、昼間の駄菓子屋が大人のための「駄菓子バー」へと表情を変える店舗も登場している。昭和の駄菓子をつまみに、京都のクラフトビールや日本酒を楽しむ。子ども時代の記憶を大人の嗜好品としてリフレインさせるこの試みは、地元住民とインバウンド観光客が肩を並べて杯を交わす新たな交流の場を生み出している。
路地裏の灯りを絶やさないために:京都が挑む文化保全の未来
京都の駄菓子屋は今、文化遺産の保護と商業的な自立という、ふたつのテーマの境界線上に立っている。建物の老朽化や仕入れ元である駄菓子メーカーの縮小など、課題は決して少なくない。
それでも、ガラガラと音を立てて開く引き戸の先には、効率性とデジタル化に追われる現代社会が置き忘れてきた「人の温もり」が確かに残っている。古い街並みに溶け込む小さな店舗群は、京都という街が千年かけて育んできた「暮らしの美学」の最小単位なのかもしれない。路地裏の電球が灯る限り、この街の記憶が途切れることはないはずだ。 (出典: 駄菓子 屋 京都(Yahoo!ニュース))